AV女優「渡辺まお」だった私について「神野藍」が語るなら【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第41回
【〈渡辺まお〉としての人格はもはや存在していない】
しかしながら、作品の中の〈渡辺まお〉は2年前に完結していて、今の私の人生の中に〈渡辺まお〉であった2年間は確かに存在しているが、彼女としての人格はもう消え去った。それゆえに、同じように扱われたり、同じような振る舞いを期待されても困ってしまうのだ。今の私も過去について振り返ることや、それについて考えを深めることはするが、それは〈渡辺まお〉としてではなく、今の〈私ー神野藍〉としてである。
正直な話、昔の私を支えてくれた方々には感謝をしているが、何も理解せずに今も同じような期待を寄せられるのならば離れてくれて構わないと思っている。なぜなら、今の私の成し遂げたいのは、誰かの性的好奇心を煽る存在でいることはなくて、もっと別のものへと変化しているからだ。だからこそ、私は過去に囚われずに好きなことをやるし、何かに忖度せずに好きなものに好きと言い、嫌いなものは嫌いという。もう、ただの都合よく誰かの欲望を映し出すだけの存在には戻りたくないし、戻らないと誓っている。
最近、自分の過去についてー自分がAV女優であったことについて思い悩む瞬間が少なくなった。私の中に刻まれている暗い記憶が不意にフラッシュバックすることも徐々に減り、辞めてからも続いていた定期的な発作もあまり起きなくなった。月日が経ったことで一つ一つが新しい記憶で塗り替えられ始めている。
もちろん前回綴ったように考え続けなければいけないことや、向き合わなければいけないことは抱えているが、自らの力、そしてこれまでに出会ってきた人たちのおかげで、自らに巻きつけた鎖は少しずつ外せるようになってきているのだ。
彼女は私の半身だった。ただ彼女はいつの間にか私と別れ、彼女が埋めていた半分の部分は違うもので満たされている。彼女はあの時間からー映像の中で笑ったまま何一つ変わらないが、私はそうではない。一つ一つ選択してきたものに意味を持たせながら、少しずつ前へと進んでいく。
これで4年。私のために生まれてきてくれて、私と同じ時を過ごしてくれて、心の底から感謝している。また来年も同じように思い出すのだろうか。その頃にはもっと変わった私を見せられればと願うのだ。
(第42回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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